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それは僅かな音を立てたかと思うと同時に姿を現した。
物の怪と呼ばれるその黒い姿は、輪郭がはっきりしないものの3メートルを超えるであろう体長が恐ろしさを増幅させていた。
「早速遭遇するのかよ」
「レン、たぶん効果があるだろう薬」
「あぁ」
イツキは手におさまる程度の小瓶を取り出すとレンに声をかけた。
レンは相手から目を離さぬようにしながら、矢の先をイツキの前に差し出す。
「1滴、2滴・・・・・・よし、いいよ」
「あぁ、いくぞ」
しくじれば自分たちの身も危ないことは明白で、さらにはこの辺りにも被害を及ぼすだろうことが容易に想像できてレンの手は震えていた。
「レン、大丈夫、僕よりすっごく上手だったんだから」
レンの不安を感じ取るようにイツキが声をかける。
その言葉は確実にレンの心を落ち着かせていく。
こういうやりとりが2人の関係が続いている理由でもあるのだろう。
レンはぎゅっと目を瞑り短く息を吐き出すと、改めて標的を鋭く見つめ、矢を放つ。
力強い音と共に矢が空気を切り裂いていく。
《バーン!!》
空気を震わせるような大きな音が響いて、雷のような強い光が一瞬だけ辺りを照らす。
物の怪に矢が当たったことは分かったが、何せ初めての出来事のため、2人は息をのんで物の怪の方に目を凝らした。
そこに見えたのは、先ほどとあまり変わりのない物の怪の姿だった。
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