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2人がはっとして顔を上げる。
そこに見えたのは、チトセの姿だった。
小川の上に浮かぶようにして、水を巻き上げるようにしながら操っているようだった。
「チトセ?」
イツキが呟くように名を呼ぶと、少しばかりチトセが口元を緩めたように見えて2人は瞬きをする。
いつの間にか2人はすっかり霧に包まれていて、物の怪も一定の距離を保っているようだった。
「あっ、これを試そう」
我に返ったイツキがレンの手元にある矢に薬を振りかける。
「あ、あぁ、次こそ」
レンは霧の向こうに見える物の怪の姿を狙った。
霧は矢を導くようにさっと晴れていく。
今度も大きな音と共に光が見える。
2人は「今度こそ上手くいってくれ」と祈るように物の怪の方を見つめた。
しかし、今回も物の怪の気配がやや薄れるだけで、物の怪を倒すことはできなかったようだった。
2人がそう判断した時には、物の怪はすぐ目の前に辿り着こうとしていた。
2人は互いを庇い合うように掴もうとして距離を詰める。
なすすべなく思わず目を閉じた、その時――――――
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