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そんな言葉が出てくるのは、今、自分が生きていて、今、お兄ちゃんが生きているからに他ならない。
流石に、雪さんたちが迷宮で死んでしまったとして、この世界にならなければ出会わなかったのだから、それを神にどうこう言いはしなかったけど……。
例えば。
そう、ほんとに、これは、例えばの話だけど。
――お兄ちゃんが死んでいたら。
ふ、と。
そんな考えが脳裏に過ったとき、胸の内が熱くなるのを感じた。
どくん、どくん、と。
激しく脈打つ心臓の音が響き、なんというか、すごく時間の流れがゆったりとしているような気分に陥る。
それはきっと数秒、ううん、多分一秒にも満たない、刹那の出来事だった。
だって、アリスが神から目を逸らし、お兄ちゃんの顔を一瞥したそのとき、丁度、お兄ちゃんのした瞬きが、信じられないくらいスローモーションに見えたから。
――お兄ちゃんは生きている。
その事実を改めて認識すると、同時にアリスの世界は元の速度を取り戻し、ガタンッと大きな物音を立ててお兄ちゃんが立ち上がった。
その顔は驚愕に満ちており、頬には汗が伝っている。
「ア……アリス……?」
戸惑いがちに、アリスを呼ぶお兄ちゃん。
どういう意図か分からないようなふりをして、アリスは笑顔で答える。
「どうしたの?」
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