第二章 普通の女の子に仇はいらない。

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 螺旋状に矢の周りを循環させて、後方出力で勢いを増す。  矢自体にも魔力を流し、硬度を上げる。  物質強化、と呼ぶらしい。  アリスの装備にも使われている、とか。 「……よし」  僅かに、でもさっきよりも強い風を纏った矢を、集中を途切れさせずに構える。  集中が途切れれば魔法はとける。  奥で停空しているドラゴンに狙いを定め、放つ。  放つと、アリスの髪を吹き上げる程の風が巻き起こる。  なんとか、成功。  制御しなければいけないのは射るまでだから、射ってしまえばもう安心していい。  矢は他のドラゴンや鳥の間を真っ直ぐ突き進み、的に――当たらなかった。 「あぁ……」  なかなかいい出来だと思ったんだけどなぁ……。  そう毎回、上手くはいかないか。 「今のはなかなか良い線をいっていたぞ」 「そかなっ?」 「あぁ」  そっか、そっか……よしよし。  口元を緩めながらも、アリスは狩りを続けるのだった。         × × × ×  事態が急変した。  というか、事態が動いた、のはその日の夜だった。  薄暗い街道を月明かりが仄かに照らし、一身に受けた殺気が肌を刺す。  対峙するように立つ女の子の髪は柔らかい茶色。  腰までありそうな、その長い髪が夜風でふわりと舞う。     
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