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翌日も、府川はそこにいた。スマホを取り出し、女が来るのを待つ。
ほどなくして、女が現れた。しなやかな動きで、軽快に走る。躍動する魅力的な肉体を包んでいるのは、いつもと同じくタンクトップにホットパンツだけだ。
さらに、ビルから二人の男が出てきた。両方とも、三十代から四十代だろうか。ブランド物のスーツを着ており、背が高くガッチリした体格である。片方の男は、金属製のアタッシュケースを持っている。
女は、そんな二人組の前を走り抜けて行った。すると男たちは、いかにも下卑た目付きで女の後ろ姿を見つめる。口元には、いやらしい笑みが浮かんでいた。
そんな目で、あの人を見るな。
男たちに、そう言いたい気持ちをこらえつつ、府川は女の行方を目で追っていた。女はいつもの通りに、十字路を右折する。
府川ははやる気持ちをこらえ、さりげない動きで後を追った。十字路で立ち止まり、女の後ろ姿を見つめる。
女は、ゆったりとした速度で走っている。その横を、廃品回収のトラックがのんびりとしたスピードで通り抜けて行った。トラックを運転しているのは、スキンヘッドの逞しい青年である。ハンドルを握っている腕は、丸太のように太い。このトラックもまた、毎日この道を通る。
何もかもが、いつもと全く変わりない風景だ。この風景を、府川は何度も見てきた。
次の日もまた、府川は同じ場所に立っていた。
しばらくすると、女がこちらに向かい、ゆったりとした速度で走って来るのが見えた。キャップを被りサングラスをかけ、タンクトップとホットパンツのセクシーな姿である。
さらに、ビルからスーツ姿の二人組が出て来た。これも、いつも通りだ。彼らは駐車場まで歩き、車に乗り込む……ジョギングする女の後ろ姿を、いやらしい目で見ながら。府川が今まで、毎日のように見てきた光景である。
だが、その日はいつもとは違う展開になるはずだった。府川は胸の中で、ある決意をしていたのである。今日こそ、自分の思いを遂げる日だと以前より決めていたのだ。
近づいて来ている、あの女と……。
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