街角にて

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 二人組の前を、女は軽やかな動きで走り抜けていく……だが二人の前を通る瞬間、女は妙な動作をした。  走り抜ける一秒にも満たない間に、女は小さなスプレーのような物を取り出す。さらに、二人の顔に吹きかけたのだ。  次の瞬間、二人組は片手で目を押さえる。いきなり目を襲った痛み……だが、それよりも混乱の方が大きい。いつも目の前をジョギングしていた女が、まさかこんなことをするとは。完璧なる不意討ちである。避けることなど出来なかった。  しかし女にとっては、そんな事情など知ったことではないらしい。片方の男が持っていたアタッシュケースを奪い取り、脱兎のごとき勢いで走る――  女は、あっという間に十字路を右折し見えなくなってしまった。  その時、府川も動く。目を押さえている二人組に近づき、スマホ片手に騒ぎだした。 「だ、大丈夫ですか! 警察呼びますか警察!」  言いながら、府川はスマホに触れる。すると、二人組は慌てて立ち上がった。 「よ、呼ばなくていい!」  片方の若い男が、涙を拭きながら言った。府川はおろおろしながら、男たちを見つめる。 「で、でも目が真っ赤ですよ! 何かされたんじゃないですか!? 警察を呼んだ方が――」  そう言った直後、府川は襟首を掴まれた。さらに、男の顔が近づいてくる。 「黙れ……いいか、お前には何の関係もないんだよ。警察なんか呼ばなくていいんだ。でねえと、後悔することになるぞ」  ドスの利いた低い声で男は囁いた。目の周りを腫らしているとはいえ、迫力のある風貌であることに変わりはない。府川は、震えながら頷いた。 「は、はい……す、すみませんでした……」  恐怖に顔を歪めながら、府川は何度も首を振る。もちろん縦にだ。  そんな彼らの横を、廃品回収の軽トラが通り過ぎていく。運転している青年は、不審そうな目で府川たちを見た。  すると、もう片方の男が近づいて来る。こちらの方は中年で、いくぶん知的な雰囲気を漂わせている。  中年男は、府川の肩を親しげにポンポン叩いた。軽トラの運転手の目を気にしているのだろう。事情を知らない者から見れば、知り合い同士がじゃれているように見えなくもなかった。 「兄ちゃん、あんた高校生か?」
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