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最後の授業が終わると同時に、府川はさっさと教室を出て行った。真っ直ぐ駅に向かい電車に乗り込み、とある駅で降りる。楽しそうな顔つきで、路地裏へと足を踏み入れた。
そこは怪しげな雑居ビルや古い木造住宅などが立ち並ぶ区域であり、どう見てもカタギの人間の住んでいる雰囲気ではない。刑事ドラマ、あるいはヤクザ映画にでも出てきそうな風景だ。漂う空気からして、違う味がする。
だが府川は、恐れる様子もなくずかずか歩いていく。廃墟のごとき鉄筋コンクリートのアパートで立ち止まり、左右をチラリと確認し中に入って行った。階段を上がり、三階にある一室のドアを開ける。
「リョウちゃん、遅い!」
部屋に入ると同時に、女の声が飛んでくる。府川はすまなそうにペコリと頭を下げた。
「お待たせして、すみません。でも僕は、一応高校生ですから……授業が終わらないと、来られないんですよう」
「高校なんか、さっさと辞めちまえよ。この仕事なら、中卒でもガンガン稼げるぜ」
そう言ったのは、ソファーに座っているTシャツを着た男だ。がっちりした筋肉質の体と、スキンヘッドが特徴的である。
そう、彼は朝……廃品回収の軽トラを運転していた男である。
「ちょっとリョウちゃん、マサみたいな筋肉バカの言うこと聞いちゃ駄目よ」
その言葉と共に顔を出したのは、美しい顔立ちと肉感的なスタイルを併せ持つ若い女性だ。
こちらは毎朝、府川の目の前をジョギングしていた女と同一人物である。
「誰が筋肉バカだ! 本物のバカに言われたくねえんだよ!」
「はあ? こっちこそ、あんたみたいな人型ゴリラに言われたくないんだけど――」
「おい二人とも、今はそこまでにしとけ。まずは、金を分けるのが先だ」
言いながら奥から出てきたのは、二人よりも年配の男だ。中肉中背で髪にも白いものが目立つが、顔つきは若い。その手には札束を抱え、愉快そうな表情で歩いてくる。
男は皆の顔を見回し、テーブルの上に札束を四つ並べた。
「全部で、一千とんで二十三万だ。うち一千を、まずは五等分して二百万ずつだ……八百万は、俺たちで分ける。残りの二百と二十三万は、この金庫に入れておくぞ。いいな?」
男の言葉に、全員が頷いた。
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