集合

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 リーダーである風間の言葉である。皆、いざとなったら全員でフォローしつつ逃げる……という話し合いは出来ていた。  また彼ら三人は、ただ現場を見張っていたわけではない。毎日のように練習していたのである。  一見すると、ジョギングする女とそれを見つめる高校生、さらに脇を通る軽トラでしかない。しかし三人は、頭の中でイメージトレーニングをしていたのだ。各々が緊張感を持ち、自身の動きをシミュレーションしつつ、現場に集合していた。  その上、売上金を運ぶ二人組のヤクザにとって、中田と府川そして廃品回収の軽トラは日常風景の一部と化している。毎朝ジョギングを日課にしているセクシーな女と、その姿をじっと見つめる暗く地味なストーカーっぽい高校生。こんな二人を警戒する者などいない。  三人は風景の一部と化すまで、現場に通いながら頭の中でイメージトレーニングを繰り返していたのだ。  結果、見事に作戦を成功させたのである。 「あ、今から飯でも食いに行きません?」  金の分配が終わった後、府川が提案する。しかし、風間は首を横に振った。 「駄目だ。今、派手に金を遣えばヤクザに目を付けられる。リョウ、前にも言っただろうが――」 「いや、違うんですよ。奴ら、僕に一万よこしたんですよ」  言いながら、府川はポケットから折り畳まれた一万円札を取り出し、風間の前でヒラヒラさせる。 「何だそりゃあ? あのヤクザがよこしたのか?」  尋ねる風間に、府川は笑いながらウンウンと頷いた。 「そうなんですよ。あのヤクザは生徒手帳をチェックした後、君は何も見ていないし何も聞いていない……なんてクサい台詞を言いながら、ポケットに入れてきました。口止めのつもりでしょうね。それはともかく、小さい定食屋ならヤクザに目を付けられないでしょう。この金で、何か食べに行きましょうよ」  ニヤニヤしながら、府川は答える。言うまでもなく、ヤクザに見せたのは偽造した生徒手帳だ。小山田高校の古田良平なる名前が印刷されていた。風間が万が一の事態を想定し、持たせてくれた物である。 「何だよ、そりゃあ……奴らは、とんでもねえアホだな」  呆れたような口調で徳山が言うと、中田もクスクス笑った。 「本当だよ。泥棒に追い銭って、まさにこのことだよね」
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