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[大丈夫よ……]
何年ぶりだろうか、美女の声が玉藻の中で甘く響く。
[あなたはこのために産まれたのだから。だから大丈夫]
玉藻の頬をあたたかな風がそっと撫でた。その刹那、痛みが引いていき、入れ違いの様に快楽がこみ上げていく。
(気持ちいい……!)
「あああッ!貴男様……もっと、もっとわっちを求めてくんなし……!」
玉藻の突然の変わり様に驚く暇もなく男は夢中で腰を打ち付け、そして果てた。
一方玉藻はというと果てたには果てたが、疲れるどころか不思議な何かが漲る気がした。
玉藻の処女を散らした男は彼女の魅力をあちこちで言いふらした。結果、玉藻の客はたちまち増えた。
そして玉藻については様々な噂が流れた。玉藻の笑みひとつ、吐息ひとつで失神する者もいるだとか、その美しさに見蕩れてたら帰る時間になってしまっただとか。
そんな噂が客を呼び、玉藻は禿や新造の面倒を見てても金に困るような事は無かった。
そして玉藻の魅力は男達と肌を重ねる度に増していく。
ほとんどの男は玉藻に一目惚れをし、そうでなくとも彼女に耳元で偽りの愛を囁かれれば虜になった。
ある晩の事、玉藻は呉服屋の次男と初会をする事になった。名は藤十郎という。顔はいいわけでもなく、かといってまずくもないどこにでもいそうな顔立ちをしている。
玉藻はこの男を見た瞬間、自分に何か利益がある気がしてならなかった。
玉藻は藤十郎を見つめ、目が合うと微笑んで見せる。
「玉藻大夫は将棋が得意と聞いているがそれは真か?」
「えぇ、ひと勝負なさいんすか?」
「どれ、やってみるか」
禿が将棋盤を出すと、玉藻は四つの歩を手に取って藤十郎を見据える。
「どちらにしんすか?」
「歩を選ぼう」
「わっちがと金でござんすね。では……」
玉藻は手のひらで軽く駒を転がしてから将棋盤の上に駒をばらまいた。
歩が三、と金が一表を向いた。
「主様が先になりんすね」
「そうだな」
ふたりは駒を並べていく。
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