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夜、りつは夢を見た。
真っ暗な空間で目の前に道を作るように青白い小さな炎が列をなすように灯る。炎の道を進むと、ひときわ大きな炎がりつの目の前に出現した。炎は徐々に収まっていき、白い毛並みが美しい九尾狐が姿を現した。
「狐さん……?」
何故か自分より大きな九尾に恐怖を抱く事がない。
九尾は再び燃え上がり、今度はこの世の者とは思えない、白銀の髪が美しい絶世の美女になった。
美女はりつの目を真っ直ぐ見据えて妖しく微笑む。りつは昼間見た自分の微笑を思い出した。
「あぁ……やっと逢えた……。愛しい娘……」
美女はりつの頬を両手で包み、愛おしそうな熱い眼差しを向ける。
「いい?あなたはとても魅力的、こんなところにいてはいけないわ。もっと華やかなところに行くのよ、りつ」
「華やかなところ……?」
そう言われてりつが思い出したのは吉原だ。銭湯へ行き来するのに吉原の大門前を通るのだが、りつにはそれが華やかで楽しそうな場所に見えた。
以前、坊主に「あそこはどんなところなの?」と聞いたら「悲しい女の集まる場所だ。こうして私と銭湯を行き来する時以外、近づいちゃいけないよ。あそこは可愛い子供を拐かしたりする。お前は可愛いからひとりで歩いたらきっと拐かされる。あの門をくぐったらもう二度と戻れなくなるのだからそう興味をしめすな」と言われたが、吉原がりつの心から離れる事は無かった。
「そう、いい子ね。吉原こそがあなたの居場所よ。りつ、あなたはこんな寺でくすぶってはいけない。吉原へ行きなさい……。はやくはやくはやく」
美女は再び炎に包まれて消えた。
目が覚めると太ももの間に違和感を覚え、荒い息が聞こえた。
「はぁ、りつ……りつ……!こんなに麗しく……」
それは坊主の声だ。太ももの間には熱い何かが擦れ、腰を上げて上半身は横を向いた体勢でいる。
起きた事を気付かれてはいけない気がしたりつはうっすら目を開けて坊主が何をしようとしているのか見ようとしたが、腰を押える腕が揺れるのが少し視界に入るだけでよく見えなかった。
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