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それでも汚い欲をぶつけられているのはなんとなく分かった。
行為はやがて加速し、止まったと思えば太ももに生温かい液体がかかった。同時に強烈な臭いがする。不思議とりつはそれが不快にならなかった。むしろりつの中にある女に火をつけた。
「はぁ、はぁー……」
何かをやりきったようなため息が聞こえ、太ももにかけられたそれは坊主に手ぬぐいで丁寧に拭き取られた。
坊主が出ていく気配がして数秒後、りつはそっと身体を起こした。
部屋には淫靡な男の匂いが充満している。りつはその空気を胸いっぱいに吸い込み、口を三日月のように歪ませた。それはとても六つの幼子とは思えないほど妖しくも美しいものだった。
りつは闇夜に支配された部屋の一点をじっと見つめる。その視線の先にあるのは手文庫だ。
手文庫とは手紙や文房具などをいれる箱の事で、りつの手文庫の中には坊主からもらった狂歌本が入っている。もっとも、幼いりつには読めても意味は理解出来ないでいたが。
りつの目は次第に闇夜に慣れていき、どこに何があるかなんとなく分かるようになってきた。りつは手文庫になけなしの小遣いを包んだ手ぬぐいを入れると、そっと寺から抜け出した。
町まで行くと、坊主に見つからないでいた事に安堵する。
月夜に照らされ心を乱しながらもりつは吉原を目指して夜の町をふらふら歩いた。
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