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手塩にかけて立派な看板大夫に育て上げたというのに死なれたのだ。
老婆はあやめをじっと見つめると口を開いた。
「あやめ、お前もそろそろ水揚げしないとね」
「それはいい、あやめを大夫にすればうちも安泰だろう」
男は老婆の言葉に賛同した。
「まぁ、わっちを大夫に?」
あやめが喜んでみせるとふたりも嬉しそうにした。
「さて、すると名前はどうしようか?」
「それならとうの昔から決めてある」
老婆はにやりと笑った。
「玉藻だよ」
「妖狐じゃないか」
男は顔を顰める。
「妖狐の様に美しい女として話題になるだろうよ。あやめはその名に恥じない美貌がある」
老婆の言葉に男は渋々賛同した。こうしてあやめは“玉藻大夫”になった。
翌日、老婆から水揚げの日取りを聞いた。四日後になるという。
それを聞いた玉藻は俯き、小さく息を吐いた。
「不安がることはない、ちゃんとした相手を用意しておいたから」
老婆の言葉に玉藻は小さく返事をした。だが実際のところ、不安がっていたのではない。むしろようやくかと思ったほどだ。
水揚げが決まった夜、玉藻は夢を見た。それは彼女が“りつ”だった頃、坊主がりつに欲をぶつけた夜の夢だった。
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