不器用な三人

2/4
前へ
/4ページ
次へ
『今一番狙い目のおねだリングはコレ!』 おそろしく厚かましい造語を背負った何十万円の指輪が紙面に並んでいる。宝石がついているものもある。婚約指輪並みだが、あくまでオシャレのための指輪なんだそうだ。華は至って普通の顔で雑誌に目を通し、ページの角を折って目印にした。 花束はもちろん、記念日ごとに貴金属をもらって当然だと思っている強欲な女、華。 強欲な女は日常のデートすら特別でないとご不満顔になる。巷で話題の予約が取れないビストロで食事をし、夜景の綺麗なバーでお酒を飲みたい。 特別な日は高級なホテルの一室を密かに予約し、部屋にバラだのケーキだのを用意し、サプライズを演出してもらわないといけない。女の子はそのためにエステに行って、ネイルサロンやまつげサロンに通って投資しているのだから。当たり前でしょ、というのが彼女の持論だ。 今の彼は、まめまめしい浮気者の誠。誠実さはお腹に置いて生まれてきた、あらゆる女性と遊びたい男だ。 彼は今、華に夢中で、せっせとお望み通りの演出を欠かさないよう心がけてきたが、ちょっと疲れてきた。彼女からの波状攻撃ともいえるご要望に応えていたら、お財布事情も厳しくなってきた。華へのプレゼントのためのお金を誰かプレゼントしてくれないもんか、なんて考えながら空を見上げて歩く昨今に、自分らしさの欠如を感じていた。 次第にあげればいいんでしょと形骸化したプレゼント。そんなプレゼントに心は入っていない。生返事に上の空の食事。そういうのダメ。私に夢中でいてくれなくちゃ。愛情?別れたくない感情?ずっと男性からチヤホヤされてきた華には、そういうメラメラした気持ちの泉が欠落している。別にいっか。いつもそうだった。 部屋で過ごす時間が大好きで、特にお笑い番組を放送するテレビをつけっぱなしにしながら、ノートパソコンでSNSをチェックしながら、週刊誌で今週の占いを見るような、なにもかも野放しに楽しむ時間が唯一無二の楽しみの女、圭子。 男性に対しては無欲だから、ローコストに済む女だけど、だらだらリラックスする趣味の時間を妨げられたくない一心で、彼氏を作らないでいた。男性は無駄な行動を嫌うし、どれか一つにしたら?とか、そもそも一緒に楽しめないから俺つまんないとか言われて面倒だったから。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加