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誠が最近、会社の後輩圭子の家に入り浸っているとの情報を華は得た。え?あんな地味な子に?何で?ちょっとだけ若いから?初めて悔しさが後から後から噴き出してきた。
会社で昼休みにばったり出くわして、思い切って問い詰めると、誠は『圭子に手を出してはいない。ただ無料の漫画喫茶のように滞在しているだけ』と弁解した。
誠の弁は真実だった。彼は圭子の家で、ズボラな圭子に代わって簡単な食事を作ったり、テイクアウトの食料品を買ってから向かったりしていた。本屋で新刊を見かけたと情報を頻繁に連絡もした。もともとまめな男なので、なんてことはない。こうして日常的にラッピングしない、高価でない、目に見えないものをプレゼントするのもありだななんて自画自賛する日々だった。
圭子は怯えている。親切心や無意識の行為は無償にはなりきれないのではないか。いつか誠が見返りを求めてくるのではないか、気が気じゃない。常に大きな遠慮の塊を挟んで対応しているイメージ。身体はもとより感情も肉薄することのない関係。しかし何しろ誠がしょっちゅう来るので、家を清潔にしようとか、食料を用意しようとか、自分の家でありながら、来るかもしれない人のためにせっせと働くようになった。
俺は華の何に夢中だったのだろう。綺麗な人が綺麗な場所で綺麗な服を着てキラキラニコニコする姿をみるのが好きだった。判断を間違えると急転直下で大不機嫌に。おだてて、耳障りのよい言葉をかけて、高価なプレゼントをして維持するキラキラの塊。あのさじ加減をコントロール出来た時の達成感や、自分ってデキるじゃんと思える瞬間が良かった。
今はスーパーの入り口に構える屋台で焼き鳥を買って帰り、圭子とラジオを聴きながらハガキ職人の投稿に笑ったり唸ったりする時間が好きだ。頑張らない時間を過ごすことも楽しい。穏やかな日々が続いていた。
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