ラッキーデイ

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 ラッキーデイからの転落は、数時間前にさかのぼる。  バイトを終えて二十一時少し前に、一人暮らしのアパートに戻ると、郵便受けに一通の手紙が届いていた。  十一月の夜の空気に冷やされているスチール製のそれから、B5の白い封筒を取り出す。  荒い手書きの宛名の下に、見覚えのある出版社の名前が印刷されてあった。   (……何だろう……もしかして、あれかな?!)    僕は靴も脱がずに狭い玄関に立ったまま、はやる気持ちを押さえられず、鋏を使わず手で封をあける。  白い封筒を逆さまにして、玄関マットの上に中身をばらまく。  中からすべり出てきたのはB5の紙と、明日公開のアニメ映画『ゾディアックウィッチーズ』のチケット二枚、主役声優のサインが入ったミニ色紙だった。   B5の紙を拾い上げて目を通せば、発送が遅れたことのお詫びが書かれていた。   (発送遅いよー! もう前売り買っちゃってるよー! でもいいや、当たると思ってなかったし色紙目当てだったし、二回タダで観に行けるってことだし!)    にやにやしながらようやく靴を脱ぎ、封筒と中身一式を持って部屋に上がる。   (今日はいい日だなぁ! めっちゃくちゃ僕ツイてるじゃん! 朝のテレビの星占いで一位だったし、ソシャゲのガチャ単発で最高レア出るし、朝比奈君とはお客さん少なかったのもあって結構しゃべれたし、レジ〆も一緒にできたし、外れたと思ったチケット当たってたし! 今日めっちゃラッキー!!)
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