翌年、五月(SS)~後編①~

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「……結婚が絡む女の愛情を素直に受け入れられなくなったから、男の市川サンがいい、とかいうこと?」  名家で金持ちの次男とか、女からみたら超優良物件なのはオレでも分かる。  だって朝比奈サンのことをほとんど知らなかった初対面のオレですら、「理想の高いさんごのお眼鏡に叶いそう」と思ったくらいだ。  本人の意向がどうであれ、周りが放っておきはしないだろう。   「詳しくは言わないと言ったろ。とにかく肉食獣が跋扈する中、控えめに憧れの目を向けて、下心なく素直に自分を慕ってくれた市川君は、朝比奈にとって癒しだったんだってさ」 「市川サン以外で、そーゆー男はいないの?」 「僕が知るわけないだろ。いたとしても朝比奈の守備範囲外だったんだろうよ。市川君以外にどうこう、という話は聞いたことがない」 「ふーん……」    朝比奈サンが置かれている環境が可哀想だとは思うが、あまり同情する気にはならない。  同情なんていう上から目線で、気をゆるめていい相手じゃない。  強敵すぎて、油断していたらいつ恋人をかっさらわれるか分からない。  だってこのトモから見て、「家という枷を捨てて恋人を選んでしまいそう」なんて言わしめる、ハイスペック恋敵なんだから。  現状オレが家を捨てる必要はないけれど、だからって市川サンを好きな気持ちで負けはしない。  オレは少しだって市川サンを、朝比奈サン含む誰かに譲る気はない。
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