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俺が黙ると「そんな顔するなよ」と、トモが俺の頬を手の甲でぺちぺちと叩いてきた。
「琥珀は市川君を盗られるかも?と気にしまくっているけど、そこまで心配しなくてもいいんじゃないか?」
「どうして?」
「理由はいくつかあるけど……方向性が真逆なら、万一も考えられなくもないが、お前らって似ているから」
トモから見てもオレと朝比奈サンは似ているのだ、と知らされる発言に、顔がひくついたのが自分でも分かった。
「似てるなら、オレより上手の朝比奈サンを気にするのは当たり前だし、怖いじゃんか!」
「琥珀は市川君を馬鹿にしすぎじゃない?」
「え? そんなことは全然ないよ。宿題やテスト勉強、教えてもらったりしてるし」
不安と否定の返事をすれば、トモは少し厳しめの声で、オレが思ってもみなかったことを言ってきた。
「彼はコミュ障で小心者だけど、勉強以外でも馬鹿じゃない。お前らに共通点が多い――しかも朝比奈の方が優れている点が多いかも? なんてこと、正式につきあう前から分かっていたと思うよ。それでも彼は琥珀を選んだ」
「第一、そういう損得で彼は恋人を決めないだろうしね」と、つけ加え、トモは更につらつらとしゃべる。
「お前が慢心しているなら、盗られることもあるかもなぁと思う。でも油断せず精進しているなら、そう簡単に市川君も朝比奈に乗り換えはしないだろ。僕が知る彼は、尻軽薄情者ではない」
「……市川サン、ずっとオレの恋人でいてくれるかな?」
怖々訪ねれば「知るか」と冷たく切り捨てられたが、続けてこうも言ってくれた。
「市川君は現に今もお前を選び続けているんだし、映画行く日はビビらずに、堂々と彼氏面してればいい」
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