翌年、五月(SS)~後編②~

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 朝比奈サンだってこういう展開になることは予測済みだろうから、あらかじめ答えは用意しているに決まっている。  「きっと彼のことだからはぐらかしてくるだろう」とは考えていたが、リアルにそれをされると「ここまで来て、そんな答えとかナメてんのか?!」と、つい険のある声が出てしまう。 「市川君から俺がそう言ってたって、聞いてない?」 「どうでしたかね」  恋人はそんなことを言っていたかもしれないが、まず信じられないので、記憶しておくだけ無駄だと思う。 「君が俺を疑う気持ちも分かるよ。でもね、本当なんだ。星宮君が魅力的だから、友達になりたいなって。学校でもどこでも人気者だろう君と、友達になりたい! と思うのは変?」 「……変だと思いますよ。オレたちの関係から考えて」 (オレ程度の人間、朝比奈サンの周りにはたくさんいるに決まってるのに、そんな見え透いた嘘つくとかバカなの? もしくは逆にバカにされてるとか?)    朝比奈サンから視線を外し、ゴールデンウィーク後半初日の、人でごった返している地下街を眺める。   (やっぱりオレを懐柔して、仲良くなるフリして、内部からオレと市川サンの恋人関係を破壊したいんじゃないかな……?)    トモと色々話をしたが、この『何故朝比奈サンはオレと友達になりたいと言い出したのか?』について、彼の推論を訊くのを忘れていた、と後で気がついた。  けれど「トモを頼るばかりではいけない!」と思い、ひとりで悩んでみたのだが、最初に浮かんだこの考えが一番しっくりきている。  だってそういう理由でもないと、朝比奈サンがオレと親しくなろうとするメリットが、オレには考えつかないのだ。 「そうかなぁ? 市川君のことについては、君に軍配が上がって終わったのに、納得出来ない?」 「フツーの人間なら、出来なくて当たり前じゃないかと思いますけど?」
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