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「俺にとって市川君は、本当に癒しなんだ」
「……まぁあのヒトが癒し系なのは、分からなくもないですけど」
実際、イチャつきながら市川サンに甘えたり甘えられるのは、すごく好きだし癒される。
受験や日常のイライラが解消されて、明日も頑張ろうと思える。
でもそれはオレたちが恋人同士だからで。
(ふられた相手にいまだ癒されてるとか、やっぱりまだ好きなんじゃんー?!)
「市川サン以外にそういう相手とか、コトとかモノとかないの?」
いい加減、癒し役は市川サンじゃないヒトに割り振って欲しい。
主にオレの精神衛生上の問題で。
(アナタなら代わりの相手、すぐ見つけられるだろ?)
でも見つけられてないから、市川サンにいまだ執着してんだろうな……とも思ったが、一応訊いてみる。
するとやはり否定を示し、彼は首をゆるく左右にふった。
「ないよ。去年の秋――あの時にも言ったけど、市川君の代替え品なんてないから。恋人でなくても、俺には彼が必要なんだ」
過去に言い争った時とは違い、この時の朝比奈サンに攻撃的な部分はなく、むしろ寂しげで弱気さを感じた。
(アンタ、本当にどんな環境で暮らしてんだよ?! 他の男友達とかどうなってんの?!)
しかしオレはそれに対して可哀想などとは思わず、そこからは遠い感情であるはずの恐怖を軽く感じ、あの時と同じくぞくりとした。
「――着いたよ。母に頼まれたおつかい先は、この店」
少しだけ朝比奈サンに見入ってしまったオレに、彼が気づいたかどうかは分からないが、一変して元の口調に戻って言われる。
到着した店は、馴染みのないマダム御用達ショップではなく、オレも見知った看板の店だった。
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