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「……意外。石鹸ひとつ一万円、とかの店じゃないんだ?」
母親が息子におつかいを頼んだ店は、主に女子中高生からOLがターゲットだろう店だった。
さんごが使用しているスクラブがここの物だったと思うし、ドラッグストアなどで売られている物と比べれば、断然こちらの方が高い。
だが外車に乗っている息子の母親が、好んで使うイメージはない。
「うちの母親は若づくりが趣味だから、若者向けの商品や店も好きなんだ」
「ふーん……」
ポップに飾られた店内に入れば、ゴールデンウィークだけあって、メインターゲット層の大勢の女子たちがショッピングを楽しんでいる。
朝比奈サンはパックやシャンプーなどの商品には目もくれず、目的の商品まで一直線に歩いて行く。
目当ての量り売りの石鹸はレジ周りにあり、近寄ればすぐに店員が寄って来たので、彼は「これを何グラムに切り分けたものをいくつ」という旨の依頼をする。
「はい、かしこまりました! 少々お待ち下さいねー」
店員が去ったのを見計らい、この待ち時間も有効活用しようと、オレは朝比奈サンに話しかける。
「さっきの話の続きですけど、オレと友達になりたい理由は、あれだけじゃないでしょ?」
しつこく訊けば、朝比奈サンは気分を害することなく、ハハハと笑った。
「仕方ないけど、俺、星宮君からの信用が本当にないね」
「朝比奈サンがオレの立場なら、信じます?」
「そういう風に言われると、困ってしまうな」
オレがジト目で問うも、言葉とは裏腹に、少しも困った様子を見せずに彼は答える。
(こういうところからして、ハナから信じさせる気なんてないんじゃないか?!)
だが仮に俺が逆の立場で、「どう理由をつければ納得させることが出来るか?」と考えた場合、それはとても難しいと思った。
「おとしいれようとしてくるだろう」と、俺が最初から疑ってかかっているし、そうなると元から信じてもらおうと、朝比奈サンは考えていないのかもしれない。
そういう人間を信じさせるレベルの話術を持つなら、稀代の詐欺師になれるし、とうに市川サンを丸め込んで俺と別れさせ、籠絡させていそうだし。
……恋をしている市川サンに対してだけは、誠実であろうとしているのかもしれないが。
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