翌年、五月(SS)~後編②~

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「……意外。石鹸ひとつ一万円、とかの店じゃないんだ?」    母親が息子におつかいを頼んだ店は、主に女子中高生からOLがターゲットだろう店だった。  さんごが使用しているスクラブがここの物だったと思うし、ドラッグストアなどで売られている物と比べれば、断然こちらの方が高い。  だが外車に乗っている息子の母親が、好んで使うイメージはない。 「うちの母親は若づくりが趣味だから、若者向けの商品や店も好きなんだ」 「ふーん……」  ポップに飾られた店内に入れば、ゴールデンウィークだけあって、メインターゲット層の大勢の女子たちがショッピングを楽しんでいる。  朝比奈サンはパックやシャンプーなどの商品には目もくれず、目的の商品まで一直線に歩いて行く。  目当ての量り売りの石鹸はレジ周りにあり、近寄ればすぐに店員が寄って来たので、彼は「これを何グラムに切り分けたものをいくつ」という旨の依頼をする。 「はい、かしこまりました! 少々お待ち下さいねー」    店員が去ったのを見計らい、この待ち時間も有効活用しようと、オレは朝比奈サンに話しかける。   「さっきの話の続きですけど、オレと友達になりたい理由は、あれだけじゃないでしょ?」  しつこく訊けば、朝比奈サンは気分を害することなく、ハハハと笑った。   「仕方ないけど、俺、星宮君からの信用が本当にないね」 「朝比奈サンがオレの立場なら、信じます?」 「そういう風に言われると、困ってしまうな」  オレがジト目で問うも、言葉とは裏腹に、少しも困った様子を見せずに彼は答える。   (こういうところからして、ハナから信じさせる気なんてないんじゃないか?!)  だが仮に俺が逆の立場で、「どう理由をつければ納得させることが出来るか?」と考えた場合、それはとても難しいと思った。  「おとしいれようとしてくるだろう」と、俺が最初から疑ってかかっているし、そうなると元から信じてもらおうと、朝比奈サンは考えていないのかもしれない。  そういう人間を信じさせるレベルの話術を持つなら、稀代の詐欺師になれるし、とうに市川サンを丸め込んで俺と別れさせ、籠絡させていそうだし。  ……恋をしている市川サンに対してだけは、誠実であろうとしているのかもしれないが。
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