翌年、五月(SS)~後編②~

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「三番目の理由は、市川君のためかな」 「市川サンの?」  やはり直球勝負は、この手のタイプの人には合わないのだろうか?  とりあえず『友達』になって、探りと推理を繰り返し、少しずつ真意を確認するしかないのだろうか?  そんなことを考えていると、朝比奈サンは三つ目のオレに言える理由を話し出した。   「前に街中で偶然、俺と君たちが鉢合わせた時、市川君てばアワアワしてただろ?」 「今日もそうなると思いますけど」  「この映画鑑賞会で誰が一番、精神的にしんどいか?」と質問されたなら、「市川サンです!」と即答出来る。  市川サン自身もそんなことは重々承知の上で、朝比奈サンの誘いを受けたのだろうが。   (市川サンって、本当マゾ!)    恋人の性質を苦々しく思いつつも、マゾい市川サンもイイトコ無くはないけど……などと、情事中のことにも一瞬思考を飛ばしてしまっていると、朝比奈サンが彼の今後について予言する。   「俺たちの仲が改善しない限り、たぶんずっとそうなるよね。それって可哀想じゃない?」 「三人で会わなきゃいいんじゃないです?」  三角関係のため、全部が市川サンの自業自得とは言わない。  けれど良くいえばお人好し、悪くいえば八方美人な彼の性格故に、そうなってしまうのは仕方がない。 「手厳しいなぁ! 君はどうか知らないけど、恋人になれなくても俺は、市川君とずっと友達でいたいから、出来れば彼に負担をかけたくない」 「朝比奈サン的に距離をとる気はないから、オレと市川サンが恋人な限り、市川サンは胃が痛い、と?」 「申し訳ないけど、時々はそうさせてしまうだろうね」    朝比奈サンが退いてくれるのが、一番手っ取り早くて市川サンのためにもなるが、これまでの発言的にどう考えても無理だ。   (ホンット、迷惑! ――てゆーかさ、このヒト、下手したらマジでストーカー化すんじゃねぇの?! アナタはする側じゃなく、される側だろ?! 怖ッ!!)
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