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「好きな人っ!!!」
「ちょっと洋子。声が大きいわよ」
慌てて洋子の口の前に手を向けた。昼休みのオフィス街、道行くサラリーマンやOLがちらちらとこちらを振り返って行く。洋子は乱暴に私の手を押し下げ、落とした声で聞いてきた。
「どこで見つけたのよ? 合コン?」
「違うけど……」
「どんな人?」
ぐいぐい迫ってくる好奇心の塊を、上半身を仰け反らせてかわす。
「背が高くて……」
「背が高くて」
「眼鏡で……」
「眼鏡で」
「………………優しい人」
「……っかー!! 優良物件か!!」
洋子は痰を吐き捨てるおやじみたいな声を上げ、空を振り仰いだ。また周囲の注目が集まる。
「ちょっと洋子」
「良いわ。これからゆっくり聞かせてもらうから」
そう言って洋子は私の腕を引っ張って歩き出した。
(優良物件って……あのスーパードライさんですよ)
洋子に真実を伝えたらどんな顔をするだろう。驚くかな? それともやっぱりって納得するかしら?
どこかもどかしく幸せな想像に口元を緩めながら、洋子に続いて歩いた。
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