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「西園。来週の資料だけどさ」
「……え? 資料?」
「おい、こっち」
「きゃっ!」
千葉君は私の手を引っ張り、降りてくる集団の波から救ってくれた。私は反対の手を彼の胸に付き、長身を見上げる。
「ぼんやりしすぎ」
「あ、ありがと」
ニカっと笑った千葉君にそのまま手を引かれ、前に続いてエレベーターに乗り込んだ。
「ほら、水曜日の西との打ち合わせの資料」
「あ……あれね」
「少しだけ追加お願いしたいんだけど良いかな?」
「追加? 良いわよ」
(近藤さんの至急案件に比べたら、全然楽勝だもの)
にっこり笑顔を返せば、「ありがとっ! 西園」と掴んだ手を私の顔の前まで持ち上げた。そのまま頬擦りでもされそうな勢いだったので、慌てて手を下ろす。
「じゃ、会議終わったら席まで行くから」
「分かったわ」
閉まるドアの先、近藤さんの姿は見つけられなかった。残念。
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