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「兄ちゃん、どうやら新入りのようじゃな。」
書類に名前を書いている途中、職員らしいシワだらけの老人に声をかけられた。
図書カードを作っていたことから、察したのだろう。
「そうかい、やはりそうだったか。ここらじゃアンタ程大きいのは見ないからな。それにしても儂50歳じゃから、儂の30年前にそっくりじゃな。」
どう見ても後期高齢者である。
どうせごまかすならもっと若く設定しないのだろうか。
謙虚なんだかどっちなんだか。
そこは少し疑いを持ったが、どうやらいい人らしいので、話を続ける。
「儂もここにきた頃は図書館に足繁く通ったもんじゃ。」
がらんとした館内に、老人の声が響く。
「どうにかして脱出を試みたりしたもんじゃが、お前さんは無理せんようにな。それから……」
老人は、静かに、
「夜は出歩かん方がいい。」
と、真剣な口調で、そう言った。
「犯罪帝王が出るかも知れん。」
そうして、僕の書いた書類を見ると、
「偽名じゃな。まあよい。本名を書きたくなったら来なさい。」
「ありがとう、ございます。」
僕は本を3冊借りた。
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