はじまりの春

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「お願いがあるんだ。  力になってくれる?」 「ボクに?できるかな?」 お兄ちゃんが泣きそうな顔をして 真剣に頼み込んでくるから、 「いいよ!ボクにできることだったらね」 出来ることなら協力してあげようと張り切ったけれど 頼まれたのはただ、手紙を渡すことだった。 だったら、お兄ちゃんが自分で渡せばいいのに、 それじゃダメらしい。 子供みたいなイジけた顔をして 「ちょっと大人になったときにボクにも分かるよ。」 なんて言うから、ママがよく口にする “大人の事情”ってやつだろう。 「ところでお兄ちゃん名前は?名前書いてないよ?」 「中には書いてあるから、読めば分かる」 「ふーん。  これを、先生に渡せばいいの?」 「うん、よろしく」 それだけ言って、お兄ちゃんはいなくなってしまった。 偶然出会った、5歳のボクに頼みごとなんて 大人気ないけど、とにかく必死だったんだろう。 あの手紙に何の意味があったのか 自分で渡さなかったのは何故なのか それを理解したのは、お兄ちゃんが言ったように ボクがちょっとだけ大人になったときだった。
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