靴が鳴る

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靴が鳴る

 半年程前、姪っ子が事故で亡くなった。  姉と義兄さん、義兄さんのご両親で近くの公園に行き、姉が少し目を離した隙に、公園の池に落ちて溺死したのだ。  半狂乱になった姉は今も伏せっており、姉のせいではないと言ってくれる義兄さんやお舅さん、お姑さんの言葉も聞けない状態だ。  そんな姉を案じ、家が近いこともあって、私は何度となく様子を窺いに姉の所へ顔を出していたのだが、ある時、姉の家で聞く筈もない音を聞いた。  キュッ。キュッ。  小鳥か小動物が鳴くような小さな音。その音に私は聞き覚えがあった。  これは姪の靴の音だった。  歩くたび小さな音が鳴る靴は姪のお気に入りで、一緒に出掛ける時はいつもその靴を履いていた。…そう、あの日も。  私はその場にいなかったけれど、義兄さんから亡くなった時の姪の様子は聞いていた。  お気に入りの靴を履いて、姪は嬉しそうに両親と祖父母と共に出かけたらしい。  どこからかは判らないけれど、懐かしい小さな靴音が聞こえる。でも怖さはまるでない。ただ、もうこの音を響かせていた存在がいないことが悲しかった。  まだたったの四歳。この先いくらでも楽しいことがあっただろうに、こんなふうにいなくなってしまうなんて。  響き続ける小さな靴音に涙か込み上げてくる。その空気を突然の悲鳴が破った。 「この音、あの子の…何でこんな音がするの?! あの子は死んだじゃない!」  叫んでいたのは姉だった。どうやら姉にも同じ音が聞こえているらしい。
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