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見つめ合って、微笑みあう私たちの姿を見て、
ごちそうさま、と小此木さんは仕事を投げ出しテーブル席の客達の横に座り込む。
その淹れかけのコーヒーをちゃんと引き継いで、
ゆっくりとゆっくりと細く湯を注ぐ成沢さん。
その手元、口元、目元と順繰りに見つめて私は、あらためて思う。
この店のコーヒーのおかげで、たくさんの人に出会えた。愛せる人にも出会えた。
人生に彩りを添えてくれた、大切な場所。
これから私と、私の愛する人と二人でありったけの愛情を注いで守り継いでいく、
第二の我が家・・
「お待ちどうさま」
香しい匂いに顔がほころぶ。一口飲んで、私はうふふと肩をすくめる。
「どうしたの?」
「なんだかこの間までと味が違うみたい」
「そうかな?いつもとおんなじように淹れてるんだけど・・」
「もう!鈍いわねえ」
相変わらず真面目な成沢さん。
私の言いたいのは、恋のエッセンスで味が変わったってことなのに・・
「あ、そうだ、何食べるんだっけ?」
「まだ注文してないわよ、もう、しっかりしてよ、二代目マスター!」
その時いっせいに他の客達が笑い声をあげた。
いつのまにか注目されていた私と成沢さんのやり取りに、店中の客が拍手を送る。
その明るい輪の中でひときわ大きな拍手を送ってくれているのはもちろん、
小此木さんだった。
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