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一年後、「喫茶・薔薇色」の店主が代わった。
小此木さんは自分が元気なうちに店をゆずっておきたいと、
大切に守り続けてきた「薔薇色」を修二さんと私に託したのだ。
夫婦になった私達に。
でも店にでるのは修二さんだけで、私はまだ仕事を続けている。
ここまでがんばってきたのだから、定年まで勤め上げたい。
その考えに修二さんが賛成してくれたのだ。
それに、私が手伝うまでもない。毎日、小此木さんが店にいるのだから。
カウンターの端の席はご隠居となった小此木さんの指定席。
だけどじっと座っていることに慣れていない小此木さんは、
結局今まで通り店の中で動き回っている。
でもその光景が、一番自然に見える。
愛おしそうにサイフォンを眺め、語りかけるような口元を見せながら豆を挽く、
品の良い年寄りの姿は、いつまでもカウンターの中で輝いていてほしい。
いつか・・歴史は変わり目を迎える。
その時に明るい未来の光を感じられるように、毎日を精一杯生きよう・・
今日も薔薇色のコーヒーは、私の、この店を愛するすべての客達の、
鼻腔に神秘の香りを届けてくれる。
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