第2章 寂しそうな客

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男の客、それだけしか印象を口にできないのは、 終始うつむき加減でテーブルに肘をついているので、 つまり顔をあげないので大体幾つくらいなのかという判断すらできない。 後ろ姿を見る限りはそんなに年配ではなさそうだ。 ほっそりとはしているが、肩がしっかりしている。自分と同年代くらいだろうか。 それにしても・・なんて寂しそうな背中なんだろう。 前に丸まり気味なのは、世の中から逃れたいとでも表しているかのようで、 見ているだけでピリピリとした緊張感が伝わってくる。   私がじっと見つめていたことに気がついたのか、浴びていた視線が不快だったのか、 わずかに顔を上げ、こちらへ動かして見せた。 もちろん目を合わせないような角度にしか顔をあげていないが、 私は慌てて男に向けていた顔をカウンター越しのサイフォンへと向けた。 その時、昔懐かしい鼓動を感じた。 中学生の頃、憧れの先輩と廊下ですれ違った後で姿が見えなくなるまで見送った、 あの時の鼓動・・心臓が壊れるんじゃないかと思うほどドキドキして。 その時に似た心臓を、ちょっぴり感じた。 でも今のは、恥ずかしさと申し訳なさが原因で、 トキメキなどというセンチメンタルなものの訳がない。だって・・ その男の顔すらよく分からないのだから・・
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