第3章 再会に添えられた喜び

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  結局、たいした話はしなかった。 天気の話、コーヒーの話、いただいたハンカチをとても気に入った、とか。 今度会ったら何を話そうなんて気持ちに勢いをつけていた割には、 気の利いた話題など思い浮ばなかった。だが、よくよく考えてみると、 それはとても品の有る事だと思えた。 いくら初対面ではないとはいえ、プライベートな事をづけづけ聞いてこられたら ちょっとかまえる。たぶん、小此木さんから簡単な事は聞いているはずだ。 私がどんな仕事をしていて、会社は近くにあって、出勤前にモーニングを食べにくる、 そのくらいのことは小此木さんもためらうことなく話していただろう。 それ以上のことは、会話の回数を重ねれば自然と話題にできるようになる。 相手に不快をあたえないように、さりげなく口にできるようになる。 それが大人というものだ。   店を出て、商店街を少しだけ一緒に歩いた。 「成沢さんは京急線ですよね、私はJRなんで、ここでお別れです」 話したりなかった、という気持ちがほんのわずか、足を止めた。
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