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第2章 寂しそうな客
「こんばんは」
奥深く鳴り響くカウベルの音。本日このカウベルを鳴らすのは2度目だ。
「ああ、村山さん、お疲れさま」
カラになったトレイを抱えた小此木さんが、カウンターの内側へ戻るところだった。
「今日は夕飯もここで済ませようって、
どんだけこの店に売上協力すれば気が済むのかしらね、私も」
笑いながらいつものテーブル席に目をやると、見慣れない客が一人で座っていたので
カウンターに座ることにした。
「村山さんみたいなお客がいるからつぶれないでいるんだよ、この店は。
これからもじゃんじゃんお金落としてね」
肩を上下させながら笑う小此木さんに、こちらも笑うしかなかった。
はいはい、売上協力いたしますよ、と。
「じゃあとっておきのナポリタンをお願いします。それと食後のコーヒーは・・
モカにしようかな」
「かしこまりました、お嬢様」
右手を胸にあててお辞儀をする小此木さんの、相変わらずの茶目っ気ぶりに
仕事の疲れは吹き飛んだ。
少し甲高い声で笑ってから、店の中は私達だけではない事を思い出した。
私がいつも座るテーブル席に座っている、見慣れぬ客。
私は口を押えながらその客の様子を窺った。
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