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「じゃあ旅行代、出して」
「……旅行?」
「オレとヒナの分。どうせ今月暇だし、ヒナとのんびり旅行に行って来る」
唯人のセリフに、稔と司が同時にガタンと立ち上がった。
「あかんあかんあかんっ!」
「とっ、亨さんを巻き込まないでくださいっ!」
一瞬にしてヒートアップした男2人を、唯人は半眼になってじっとりと睨みながら、
「なんでもいいって言ったじゃん。……うそつき」
と稔を非難した。
口ごもった稔を、司が肘でつつき、
「ちょっと先輩。なんとかしてくださいよ」
と囁く。
稔はぐっと呻いて、
「おまえは暇かもしらんけど、雛瀬かて用があるやろ。それこそ、海棠と旅行に行くとか……」
苦し紛れにそう言ったのだが、
「や、べつに。オレも全然暇だけど」
当の亨がしれっと唯人に同意してきた。
亨は明らかに変態を見る目で稔を見ている。
なんということだ。唯人にコスプレをさせたつけがここで回ってきた。
稔はただ、己の誕生日を満喫しただけだと言うのに……。
横から伸びてきた司の腕が稔の首を挟んでヘッドロックをかけてきた。
いつもは犬のように柔和な目元を険しくして、
「先輩。絶対になんとかしてくださいよ」
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