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乗り合わせた車両に、目が離せなくなってしまう人がいたなんてことはよくある。
例えば先日向かいのドアの前に居たカップルは、見るからに大学生だった。
男性は、特にイケメンでもあまりおしゃれではないが、清潔感ある容姿に長身で、彼女の話をかがむような姿勢で聞いている。三年生くらいだろか。しかし彼氏ぶって彼女の背に手を回してドアから入る人から守るなんてことはしていない。ドアからどっと人が来て、ぶつかって謝ったり、彼女から離れてしまってやだーとか言われてへどもどしたり、おそらくあまり女性に慣れていない様子だ。
女性は見るから一年生だ。大学生になったんだから!と張り切ってデパートでゆるふわかわいい系の店で上から下まで何枚も気に入って買い込んだのだろう。白いツインニットにパステルカラーのフリルスカートと、とにかく甘い女の子の世界から現れたキャラクターのようだ。膝より少し上でついえたスカートからは、あまり運動は得意ではなさそうな頼りない足が長く伸びる。リボンのモチーフがかかとについたピンク色のパンプスは惜しいことに少し汚れている。でも、このフルセットが私を一番可愛く見せるから!と張り切って着てきたのがビンビン伝わってくるのは、彼女の濃すぎるメークからだろうか。気合いが入る時は、鏡の前にいくら立っていてもまだ足りないような気がして、どんどん厚くなっていくものだ。今日は彼女にとって勝負の日なのだ。サークルで仲良くなった先輩から、一歩進展させるのは今日!彼女の強い意志を感じる。ゆるふわファッションを身にまといつつも、彼女は確実にハンターだ。少し短めのスカートがそう主張している。余計なお世話だと思うが、ちょっとぽっちゃりしている彼女のスタイルは今日の完全なる膨張色にふんわり包み込まれている。おそらく安くサイズの合っていない下着に雑誌で見たとおりの手法で両胸を寄せたり上げたりして詰め込んだであろう。私は見るからにふんわりしています、さあ触ってみてと言わんばかりの無防備な彼女は、危なっかしくてとても一人で電車に乗せられない。そう思わせるべくそんな格好をしているのかと邪推したくなるが、あくまで彼女は全魅力を目の前の先輩にだけ見せたいのだ。あまりに熱心になり過ぎて、周りが見えない状態に陥っている。ちょっと、もう少し包み隠さないと危ないよと進言したくなる。
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