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ある金曜日の夜だった。乗った電車の前に座るサラリーマンとOLに目がいった。
サラリーマンの方は四十代くらいだろうか。メガネをかけて真ん中からきっちり分けた清潔な髪型に精悍な顔だち。濃い色のスーツに、だらだらした模様のネクタイを締めている。
隣に座っているOLは、雑誌で見るようなデキる女をイメージさせる格好で、カットソーにタイトスカートを合わせ、ジャケットを着て、社会人になって何年目かになって通勤スタイルがこなれてきた感じだ。黒く真っ直ぐな髪の毛は背中くらいまで伸びているが、半分だけ真ん中で集めて留めて、顔まわりをすっきりさせている。男性の秘書なのか?営業補佐といった感じなのか?きっと間違いなく仕事をこなすことができるだろうと見た目からは推察される。
女性はビジネスバッグを膝に乗せ、手を合わせて指を遊ばせている。男性は携帯電話を見たり操作させていて、一見二人は何の関係もない偶然隣になった乗客のようだが、女性が正面を向いたままポツリと何か言って、男性が頷いてハキハキとそれに何か返答したことで、二人は連れであることがわかったのだ。
かなり終電に近い時間の電車だった。会社の飲み会の後、たまたま方向が一緒だったのだろうか。それとも…私はそれとなく視野に二人を入れてしまった。
男性は日焼けしているのか、お酒のせいか、顔が赤い。女性は正面を見たり足の先を見つめたり、何か考えている様子だ。二人の年齢差は十近くある。
その時男性が首だけグッと窓の外を見た。勢い彼女の耳元に口が寄る。何かを囁いて彼女はカバンを握り締めながら頷いた。
そして到着した駅で、二人は連れ立って降りていった。そこは鶯谷駅だった。彼女のためらいがちな足元は男性より数歩遅れていたが、決して酔って揺らいではいなかった。今回手のひらに残った勘ぐりの実は二個。彼女のためらい顔のせいか、少数だった。
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