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「あなたの方が早いでしょう」
坂之上由紀(さかのうえゆき)だ。つんと言い返した真千子にめげもせず書類整理の作業を続けている。ふわりとシャンプーの匂いが漂ってくる。真千子はこの女が苦手だった。
「お、坂之上ちゃん今日も早いね。息子さんは元気?」
ロマンスグレーの髪に銀縁眼鏡をかけた事務所の所長が通りがかりに話しかけ、その内容に真千子は身じろいだ。
「はい。今日もとっても元気です」
「そりゃあよかった」
息子? 由紀は間違いなく真千子より年下なのに……いや、十代でもないのだから子供がいたっておかしくはない。
しかし、隙のない化粧、アレンジされた髪型、細い腰回りに膝丈のスカート。ふわふわした色香を放つ年下の女が、自分より一歩も二歩も先を行っているような気がして真千子は一層苦手意識をつのらせた……のだが。
「班長って、そういえば前は自然発電推進課でしたよね」
由紀は天真爛漫に話しかけてきた。
「そうですけど」
「渡貫くんって知ってますか?」
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