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「ごめんください。県税事務所でーす」  応答がない。三拍おいて、由紀がもう一度声を張り上げようと息を吸った瞬間、 「どうぞ」  しゃがれた返事が聞こえた。 「失礼しまーす」  錆び付いた引き戸をこじ開けると、そこはおそろしく散らかった事務所だった。どこの部署にも片付けられない人間はいるものだが、彼らを十人放り込んだらこうなるだろうか。  間もなく杖をついた老人と年若い男が姿を見せた。若者は汚れまみれの作業服姿で、老人のほうは何とも名称のわからないだぼついた服を着ている。 「わざわざすんませんでしたね」 「いえこちらこそ。社長さんですか」  吏員証を見せながら由紀がきびきび尋ねる。 「そうです。丸本と申します。ほれトシ坊、お前もちゃんと頭下げい」 「山野っす」  ヤンキーが崩れかけたようなやせぎすの若者が渋々頭を下げた。由紀よりも年上のはずだが童顔でちっともそうは見えない。
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