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「はい」  由紀は一瞬逡巡したが、覚悟を決めたように言った。 「私、子供なんていません。もちろん結婚もしてません。一人暮らしです。……息子は、猫。子猫なんです」 「ねこ」  ほうけた顔で真千子は呟き、思い出した。由紀は昨日たしかに「そういう子供ではない」と言ったのだ。 「所長は猫仲間だからいいんです。でもそうじゃない方に飼い猫を『息子』だなんて、改めて聞かれたら恥ずかしくなっちゃって……」  真面目な顔で言い訳する由紀に、真千子はなんだか笑い出したくなった。昨日まで大の苦手だったはずなのに、嫌いだと思っていたから全ての言動をひねくれて捉えてしまっていたけれど、由紀はいつだって真千子を思いやってくれていたではないか。今も、クリアファイルで真千子のことをぱたぱたと扇ぎ続けているくらい。 「ねえ、坂之上さん」
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