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「そうそう、今ちょうど一人足りてなかったの」
ノベルンはそれには聞く耳も持たず、右往左往しながら、大仰にリアクションした。
「俺が?子供とバンドを?ムリだ、ムリムリ。楽器なんて子供の時以来、触ったことすらないし、そもそも......」
「足りてないのはベースだよ」彼女がノベルンの言い訳を遮って言った。それにたいして、ノベルンは大きく手を宙に振り回し、声高に主張する。
「ベースギターだって触ったことないよ。産まれてこのかたな」
彼女はそれを見て微笑んだ。
あまりに突然だった為、「なぜ笑う?」とノベルンが尋ねた。
「今の動き、指揮者みたいだったから。リズム感あるんじゃない?」
その笑顔はまんま、教会の壁に描かれている天使のようだった。恐らく、これで何人もの男を落としてきたのだろう。
「とにかく」とノベルンは話を元に戻した。「俺はベースなんて弾けないし、バンドだって無理だからな」
しかし、彼女はそんなことお構いなしに、彼の右腕に手をかけ、引っ張るように歩きだした。
「一ヶ月も練習すれば弾けるようになるよ」
その上目遣いに抗う術はなかった。
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