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   カヤが去ってから暫くベースの練習をしていると、がなり立てるようなバイクの轟音が近づいてきて、低いベースの音をかきけした。  やはり、こんなところで練習するもんじゃないな。ノベルンは聾する喚きに耳を塞いでいると、視覚的にバイクが三台、こちらに向かってきている事に気づいた。    バイクが彼の前に停車したのちに、フルフェイスのヘルメットの下から見覚えのある顔が二人──モヒカン・グリーンとロンゲ・レッドが現れた。  もう一人が黄色だったら信号機になるのにな、とノベルンが下らない事を考えている間に、三人目は坊主頭である事が分かったので、彼は心の中でちぇっと舌打ちした。 「ベーシストが見つかったんだな」  ノベルンは皮肉混じりに坊主頭に目配せする。 「まあ、そんなことより何しにきたんだ?」 「カヤの事よ」モヒカンがいう。 「何?」と訊きつつも、ノベルンには大方の察しがついていた。 「あの子に絡まないでちょうだい」  ──ほらきた。 「何故?」  彼は微笑を浮かべながら答えた。 「あたし達のバンドが疎かになっているからに決まってるじゃない」  赤いロン毛が割って入ってきた。坊主は状況をあまり理解していないらしく、後ろで興味なさげに爪をいじってる。  そしてロン毛のかわりに、モヒカンがノベルンを諭すように訴えかけた。 「貴方はこの辺のバンドの事を知らないかもしれないけど、あたし達メジャーデビューが近いのよ」 「何?メジャーデビュー?」ノベルンは目を丸くした。  そんな話は、カヤの口から一度も聞いたことがない。 「そうよ、次のライブの新曲が良かったら、レコード会社が契約してくれるって」  モヒカンに続けてロン毛が怒鳴る。 「分かったらカヤをたぶらかすのはやめて。あの子はアンタと違って才能があるのよ」  ノベルンは何も言えなかった。それは否定できない事実だ。彼女は若くして才能があるが、俺にはもう後がないだろう。作詞だって、あと何曲出来ることやら...... 「なによ、押し黙っちゃって。彼女の事を思うなら、もう本当に付きまとうのはやめてあげてよ」  モヒカン女は、そう言い残してバイクのアクセルを回し、また五月蝿い音を撒き散らしながら去っていった。
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