14.病原体

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の家族にとっての病原体にすればいいじゃないか…という声が、どこからか聞こえたんです。私はその声に従いました。病原体はその環境がなければ生きられないにもかかわらず、自分の環境を破壊する…でも私にはもう、生きてる自分の環境というものが、全く見えなかったです。そんなものがどこにあるのか…ただ見えるのは他人が暮らしている環境だけです。ただ考えてみれば、その他人の環境こそが、実は私が生きてる環境なんですが…そんなの、当たり前の事なんですが…やっぱり私は病原体になっていたんでしょうね。ただの人獣ですよ。いや、正義漢ぶって、使命だ何だと言っていた医者の頃だって、私はやっぱりただの病原体だったんでしょうね」 オレは言ってやりたかった。 このじいさんに言いたかった。 オレだって病原体だと。 これまでずっと、人間なんか、みんな大嫌いだった。 幸せな奴の思い上がりも、不幸な奴の被害者意識も、みんな見苦しい欲だと思ってヘドが出た。 このじいさんの言い方で言うなら、どいつもこいつも病原体であり人獣だ… と言うか、生きていることが病原体の感染行動だと思ってきたようなものだ。 だが何故かオレは、そんな人間共の環境を守る刑事なんて仕事に就いてしまった。 その生活は、あの猫としかまともに向き合って生きられない杉本安代と似たような、友達もいなけりゃ、愛する人間もいない生活だった。 だが何故かオレは、ずっと、上司の吉沢よりも前から刑事をやってきた。 病原体が、病原体の塊のような極道共に立ち向かい、病原体になってしまった犯罪者を追ってきたようなものだ。 自分でも、本当のところ、何をやってるのかわからない。 だが、これからもオレは、刑事をやっていこうと思った。 病原体として、環境ってやつを守っていく… そうするしかないと思った…。 吉沢は、取調室を出てから、オレの肩を叩いた。 「これからもよろしく」 意味がわからない…     
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