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実際、子供が食べたであろうここ数回の食事の中に、もし感染的な食肉が含まれていたとしても、旅行出発前の両親が、異変が見られない子供からその症状を認めることは出来なかっただろうから、これは両親が旅行中の、回避し難い事故的病死と断定された。
しかし両親夫婦は、自分たちが子供を置いて、二人だけで一泊二日とは言え旅行に出かけたことを悔やみ続けていた。
それが関係してかどうか、その後この両親にも不幸な事態が巻き起こることになろうとは、この時、オレも上司の吉沢も知る由もなかった。
事件関係者の葬儀にいちいち出向く方ではないが、たまたま子供の葬儀が行われている斎場が近かったせいもあって、外へ出た途中に、子供の葬儀に顔を出すことにした。
そのためにわざわざ黒いネクタイを着用する気になったのは、オレなりにあの子が少し不憫に思えたからだと思う。
それと自責の念にかられて、自分たちを責め続けている、両親夫婦のあまりの落胆ぶりも気になっていたからだ。
葬儀を行なっている斎場には、それほど多くの参列者はいなかったが、見知った顔があった。
上司の吉沢だ。
「警部もおいででしたか」
こちらから声を掛けると、吉沢は振り返って照れ臭そうにしていたが、
「うちにも死んだあの子と同じ年頃の息子がいてね、とても他人ごととは思えなかったんだよ」
と言った。
「仕事柄、君もそうだろうが、中々家には帰れんだろ。あの両親は一泊二日の旅行の時に家を空けただけだが、私なんて一週間家に帰らず、子供の顔を見ていないなんてしょっちゅうだよ。なんだか罪悪感すら感じてしまってね」
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