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吉沢は一流大を出たキャリア組で、オレより少し若い。
このままキャリア組としての出世コースを順調に歩んでいく男だろう。
しかし人間嫌いのオレから見ても、吉沢はかなりマシな奴だった。
大きな事件捜査の指揮だって立派に取ることが出来るし、柔道3段の腕前で、派手な格闘の末、傷だらけになって若いチンピラを逮捕したこともある。
その後、そのチンピラが更生するまできちんと面倒を見た男だ。
署内ではエリートに対するやっかみから、悪口を言う者もいたが、その悪口を言っているノンキャリア刑事の素行など、反吐か出るような行いの繰り返しだった。
このノンキャリア刑事とは前に道場で手合わせしたことがあるが、何故か気を使って投げられてやる奴も多いらしいのだが、オレは思いきり投げ飛ばし続けてやった。
きっとそれで、奴はオレに嫌われていることに気づいたろうが、そんな事は知ったことじゃない。
容赦なく投げ飛ばされているうちに、奴は怖くなったのか、仕事が残っていることを言い訳に、そそくさと道場から出て行ってしまったが、その姑息さにも妙にムカついた。
お焼香を済ませてから、遺族である夫婦に挨拶したが、あまりに気落ちした様子が気の毒だった。
仏前には、生前の幼な子の笑顔の写真が遺影として飾られていたが、この若さで亡くなるのは、他人のオレから見ても痛ましい限りだった。
帰り際、吉沢と一緒に出口の方へ行くと、町内の人や親類縁者らしい人たちが挨拶してくれた。
初老の男に、中年の夫婦、同じく中年の女性と若い男が色々世話を焼いて手伝っているようだった。
その後、子供が前日に食肉を食べていたことがわかり、解剖結果からも感染はその食肉からではないかと推測された。
そのため食肉を売った肉屋は、しばらく休業する旨の張り紙を、店頭に貼って店を閉めた。
両親は子供の好物である鶏肉を子供の分だけ買って来て食べさせたそうで、子供の好みに合わせたご馳走のつもりが、とんだ災難となってしまったと嘆いているらしい。
署に戻ると別の事件が起きており、こちらは殺人事件だというので、吉沢もオレも気持ちを切り替えて、そちらの事件の方に臨むことにした。
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