0人が本棚に入れています
本棚に追加
あらすじ
ハチが目を覚ますとそこは屋外階段の踊り場だった。さっきまで海に潜って漁をしていたのでびしょ濡れだ。今までいた小説の中の世界とは違う、見た事のない景色に戸惑っていると、底なしの海みたいに真っ黒な目をしたイチが扉を開けて出て来た。
成り行きでイチと二人暮らしを開始するが、小説の中しか知らないハチの常識は通用せず、気晴らしに漁に出ようと思うが漁業権がないのでダメだと言われ手足をもがれた気分になる。そんな時イチの悩みや苦しみを聞き、支えてやりたいと思う。そしてハチは本の中に帰ることを諦めバイクの免許を取ろうと勉強を開始し、ネット古書店も手伝う。そして何より漁業権の取得を目標にたくましく生きる決意をする。そしてハチだからこそ見えた、急ぎすぎる現代の問題点。その結果、諦めすぎている現代人に疑問を持つ。自分は本だったのだから、物語を届ける事で大切な何かを伝えられないかと考えるが、自分がいた本の題名や作者を思い出せない事に気が付く。そして自分の本が見つからない。
段々と作者や、どんな物語だったのかを思い出していく中で、自分が小説から出てきてしまった理由があったはずだと思い至る。けれど考える暇も与えられないほど現実の生活は忙しい。そしてイチから、初めて会った日に自分はあの階段から飛び降りるつもりだったと聞かされ、自分が小説から出て来るきっかけになった「俺が望んでやるから笑ってくれ」という願いを思い出す。泣き止まないイチを見ているうちに本の作者がイチのお爺さんだと思い出し、仏壇で本を見つける。題名は最初からなかったのだと言うハチに、イチはこの本の題名は「残していく貴方へ」であると言う。本の登場人物の全てがお爺さんからイチへの想いであり、本の中で泣いている子はお爺さんの書くイチだった。自分はお爺さんの願った奇跡の姿なのだと伝え、ハチは改めてイチと暮らしていく決意をする。
最初のコメントを投稿しよう!