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発見されたとき、『彼女』は全裸で浴槽に浸かっていたという。 バスタブの一端に背中を預け、頭を縁にもたれさせた、緩く脚を曲げた状態で座る姿勢。要は、ごく普通に風呂に入るような格好だ。左腕だけが、だらん、と、バスタブの外に垂らされていた。ウェーブのかかった長い髪は纏められてはおらず、水面にゆらりと広がっていたという。 目立つ外傷はないが、口元から血が滴っていた。眠るように死んだ、とはいかなかったらしい。表情には苦悶がある。 遺体は既に検視のために運び出されており、現場と遺体のこれらの状況は、俺はあとから写真で確認した。 「チェックアウトの時間になってもおいでにならず、何度かお部屋にコールさせていただきました。反応がないもので、お部屋に伺いドアの向こうからお声かけもしたのですが、やはり返事はなく……清掃の都合もあるので、ということで中に入らせていただきました」 「鍵はかかっていましたか?」 「はい。オートロックですので、扉が閉まっていたのを見て当然鍵がかかっているものと思い、お客様に渡したのとは別のカードキーで解錠いたしました。特におかしなことは無かったと思います」 従業員から聞き込みをしながら、ドアを確認する。シティホテルに良くあるタイプに思えた。オートロックの鍵で、ドア横のセンサーにカードキーを差して解錠する。そこに、細工されたような形跡はない。 浴室を確認した従業員は悲鳴を上げ、それでもホテルマンの信念を発揮したか、病気で倒れでもしたならばと女性に駆け寄り、浴槽から出ていた手を取った。 そして、その手が冷えきっているのを確認すると、オーナーに連絡をし、警察に通報すると決めたという。
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