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「報告書の面倒くささってのの一つは、自分はもう見て体験して分かりきってることをわざわざ纏めなおさないといけないところかな。目新しさがなくて、ただ作業だから、モチベーションが下がる」
言われて、自分の作業中の気持ちを思い返すと納得したので頷いた。
「……ただ、やっぱりもう一度、客観性を意識して物事を見つめ直すと、大体何かしら新しい視点は見つかるものだよ」
「そういう、ものですか」
「とことんまで、客観的を意識するんだ。望む結果が出ている部分ほど、自分の願望に流されていないか、そういう目線でデータを見てないか、反証するつもりで眺めてみる。結果を求められて差し迫っているときは、やはりそんな余裕は無いからね」
それも……理解できる話だ。俺なんて特に事件の渦中は周り見えて無さそうだし。
「……実際には終わった事件に間違いがあっちゃ困るし大体は再確認で終わるけど。結果に反してなくても、全てが明らかになってからデータを纏め直すと、改めて意味が分かる情報ってのは必ずと言っていいほど見つかる」
山南さんの話に、俺はじっくりと、今日纏めた報告書、それにまつわる全てを思い直してみる。
……酔っぱらって座り込んでたおっさんを保護して話聞いて朝帰したってだけだけど。
財布も何もかも無事だったし、事件性は無い……よな。
いや、もっとちゃんと話を聞いていれば、ここからでも垣間見える社会の闇がきっとあったのだろうか……。
「だからね。結局は、自分のためになるって思ってやればいいわけだ。人に読ませるためにわざわざ纏め直すって考えると嫌になる。本当に読んでくれるのか、意味があるのかはっきりしないからね。事件を頭から纏め直すってのはそう言うことだと思う」
なるほどためになる話だった。俺が神妙に頷いて。
「……ねー、もっともらしい綺麗事だろう? 僕はだから結局、間違い探しみたいで楽しんでるけどってだけ」
説いた本人が台無しにしに来た。
山南さんはそのまま、説教臭い空気を振り払うようにどこか軽薄な動作で焼き鳥の串を新たに一つ咥えて。
そして、急に固まった。
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