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山南さんが口元から焼き鳥の串を抜く。串に何個か刺さっていた肉のうち一つが無くなっている。当たり前だ。
「え、何これ」
そうして、固まった様子のまま山南さんが呟いた。
「めっちゃ美味しい。何これ初めて食べた」
言われて、俺は彼の手元の肉の正体を確かめようと凝視する。
「ああ! そうなんですよ鳥レバー。ここ来たらホントそれおすすめです!」
そうなのだ。ここのレバーは鮮度に拘ってる上、その旨さを極力味わえるよう生焼けギリギリの絶妙な焼き加減で提供してくる。素材と熟練の技両方が必要な逸品だ。
「……は? レバー? 今レバーって言った?」
「そうですよ」
「レバーってあの、レバニラに入ってる、ドロッとしてるくせになんかざらっとしたあの邪悪な物体?」
「じゃあくなぶったい」
すごい言いように思わず何も考えずに復唱しちゃったぞ。……もしかして山南さんから初めて聞くマイナスワードじゃないか?
「レバニラ……嫌いなんですか」
「あ、いやうん。好きな人のことは否定しないよ。勿論」
そう言って山南さんは気まずそうに顔を横に向ける。ちょっと子供っぽい顔をしていた。
「え。いや、でも、レバーなのかこれは」
「ええ。えっとですね」
「ああいや待って。今は待って。何も聞かない」
その辺のレバーとは違うのだということを説明しようとすると彼は手のひらをこちらに向けて制してきた。そうして、もう一欠け、パクリと口にする。
今度はゆっくり舌の上で味わうような仕草だった。
やがてこくん、と飲み込む。
「……レバーだ。ホントだ。いや全然嫌な後味しないしクリーミーで甘いけど。でも確かにレバーだ」
何か納得したらしい。
「僕今までが食べたレバーってなんだったんだ」
「一番の違いは鮮度じゃないですかね」
「そうか……これがレバーの本気か……しかし」
彼はそこで、何かを思い出そうかとするように視線を伏せて考え始めた。
「なんとなく、レバーの旨みというものがつかめた気がする。これまでのレバーと和解できる気もしてきた」
「はあ……そうですか。良かったです……ね?」
かくして。
……無理して嫌いなもの克服しなくて良いよって言ってる人が、今まさに苦手を一つ克服しようとしてるのであった。
うーん。
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