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マリと駅に向かって歩きながら、ユカは今日のことを考えていた。
あれほど夢に見続けた瞬間を、あのステージの上にいた旬の姿を脳裏に焼き付けようとしていた時間を。せっかく買ったのに役にたたなかった双眼鏡と見れなかった旬の泣きぼくろのことを。ただすべてに霞がかかってしまっている。最後に見た旬の幻のせいで。いや、途中から夢の中にいたのかもしれない。
隣を歩きながら、興奮しているマリの話は聞こえてはいるけれど頭の中には留まらなかった。
マリと別れて一人ポツポツと歩きながら、ユカはやっぱり夢だったのかもしれないと思っていた。
失くしてしまった楽しかった時間は、もう自分の中だけでの未来のない思い出となっていた。だからこそただひたすらに旬が[JOホール]のステージに立つという夢を叶える日を祈り続けてきた。それは幸せと引き換えにしたユカ自身の夢でもあったのだから。
ぼうっとしたまま、交差点の赤信号に止まる。いつかの旬とのやり取りを思い出しながらユカは自分の頬を抓った。痛くない。もう一度もっと思いっきり。
はっと気が付くと周りの人に見られている。恥ずかしく俯きながら、信号が早く変わらないかと思っていたとき、近くの店から流れてきたクリスマスのBGMは〈White Christmas〉。
そのメロディを聴いて周りの目も忘れてもう一度、頬を抓る。・・痛い!
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