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「似合うもの?」
「欲しいもの、ない? この時期だったら、手袋とかマフラーとかいいかも」
「それなら……ネクタイは?」
「え?」
「この前学会に出た時、いい加減新調しろって同期に怒られてさ」
その言葉は、「いつまで経っても結婚しないから、そんな適当な恰好なんだよ。嫁さんがいたら、全身決めてもらえて楽だぞ」と続く……しかし、誠司と共に暮らす日が来たら、きっととやかく世話を焼いてくるだろう。考えると、自然と笑みが生まれる。
「何笑ってるの?」
「……いや」
「ネクタイ、選ぶの難しいって聞いてるけど、いいの?」
「どうして?」
「変なの選んじゃうかも」
「いいよ。誠司が似合うっていうなら、それでも」
先ほど誠司が口にした言葉が、するんと飛び出してくる。宗田が見上げると、頬を赤らめていた誠司が笑っていた。
「それなら、私がいつも行くところでもいい?」
「ああ、行こう」
「うん」
彩り豊かな街は人であふれ、にぎやかだった。二人は横に並んで、その人の波をかき分けていく。人前では決して手は繋がない……これが、誠司が決めたルールだった。
それでも、触れ合わなくても……この時ばかりは、二人とも繋がっているような気がしていた。
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