プレゼントは君のため

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「それでは、今日の……いや、今年のゼミはここまで。来年の卒業論文に向けて、テーマや、出来たら先行研究も探しておくように。以上」  片手で数えられる程度しかいない学生たちの「はい」という返事はバラバラで、結束力や仲の良さは感じられなかった。個人主義者が多いゼミらしい、とゼミの担当であるこの大学の講師・宗田優二郎は大きく息をついた。クールなメガネの向こうに見える瞳も、少し曇っているように見える。 「それと」  学生たちは各々カバンにレジュメを仕舞い、演習室から出て行こうとし始めた。その背中に、宗田は声をかけた。全員が「何だ、この忙しい時に」と眉を潜めた。その中からは歯ぎしりすら聞こえてくる。そんなリアクションも全て無視して、ネクタイの結び目に指を引っ掛けながら宗田は口を開いた。 「……若い恋人へのクリスマスプレゼントというのは、どんなものが良いと思う?」  その言葉を聞いたゼミ生たちは、すぐさま先ほどまで座っていた席に戻る。そして、全ての口が同じことを叫んでいた。 「先生、付き合ってる人いるんですか!!」  その大きな声に耳を塞ぎながら、宗田は頷いた。ゼミ生たちは、ざわつきだす。それもそのはずだった、あの『堅物』『真面目』『理屈っぽい』『にじみ出る童貞感』で有名な宗田に恋人がいるなんて、誰しも予想だにしなかったことだったからだ。  さっそく、学生たちから嵐のような質問が飛び交い始める。 「若いって、いくつですか?」 「27歳」 「先生より10歳も若いんですか!? そんな人とどこで出会ったんですか?!」 「色々あって……」 「この際馴れ初めなんてどうでもいいよ! し、仕事はなんですか? 研究者ですか?!」 「いや、近所の喫茶店で……」 「ウェイトレス?!」 「ちがう」 「じゃあ何ですか?!」 「そこはもう本題から脱線しているだろう。俺が聞きたいのは、若い恋人へのプレゼントだ。俺に質問する時間じゃない」 「でも……」  ゼミ生は顔を見合わせる。聞きたいことは、湯水のように溢れてくる。それなのに、担当教官はずべてシャットアウトしたのだ。 「あの、先生」
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