プレゼントは君のため

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 勉に比べると、ヒトミは味覚が敏感だ。だからこそ、誠司はいつも新作ケーキの試食をお願いしている。 「そうよ、さすがヒトミちゃん」 「……でも、今まで食べたことない感じがする……何だろ?」 「いや、ヒトミ、目が怖い」  真剣な眼差しだが答えを見つけられずにいたヒトミに、誠司はあっけなくネタ晴らしをする。 「みかんやオレンジじゃなくって、今回はデコポンを使ってみました~~! まだ追熟が浅くて、ちょっと酸味が残ってるやつね。いい味のアクセントになるかしら? って」 「うん、いいと思う。美味しい」 「でも、何か甘すぎない?」 「ザッハトルテはね、そういう甘くて濃厚なケーキなの。添えてある生クリームがあるでしょ? それにはお砂糖使ってなくて……箸休めに生クリームだけ食べたり、それをつけて食べたりするとお口の中でいい感じに調和するのよ」 「ふ~ん……」 「この前のガトーショコラも良かったけど、私こっちの方が好きだなぁ」 「え? 俺は前のガトーショコラかな。……これさ、もし俺らの意見分かれた場合、どっち採用されるの?」 「いいんじゃない? どっちも美味しいんだし……パパに頼んであげる」 「あら、嬉しいわぁ」  手を頬に当てて、誠司が笑みを浮かべている間に勉はザッハトルテを全て食べつくしていた。 「ごちそうさま!」 「はい、どうも」 「でも、セイちゃんのケーキってめっちゃ旨いよな。クリスマスケーキも売ればいいのに、うち毎年母ちゃんと姉ちゃんの手作りだから飽きちゃったよ」 「いつかその味が懐かしくなるときがあるわよ……」 「一度考えたよね、うちの喫茶店でクリスマスケーキ出すの」 「何でやめちゃったの?」 「セイちゃんのワンオペで100個以上のクリスマスケーキの受注受けるの大変でしょうって」 「大丈夫よ、ソレくらい。大きいケーキ屋さんでパティシエやってたときは、毎年やってたんだから」 「それに……」 「ん? なあに?」 「……セイちゃんにはラブラブの彼氏がいるんだから、せっかくのクリスマス奪ったら悪いかなぁってママが」
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