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プレゼントです、と言わないあたり目の前の客の堅物具合が手に取るように分かる。店員は勝手に、「不器用な人」だと思い込み、話をつづけた。
「えーっと失礼ですが……お相手の方、男性ですか?」
このブランドはメンズ以外の取り扱いはない。もし女性用の物を希望しているのであれば、大変申し訳ないが帰ってもらった方がお互いのためだった。しかし、客の返答は「ええ」という「yes」という意味を含んだ言葉だった。
客は、「だからメンズブランドに来ているんだ」と言いたげだ。この堅物で話が通じにくい感じ……そこにひとつ、思い当たるところがあった。常連客の“彼”。彼がよく話をしている恋人は、今目の前にいる客に似通うところがあった。
まさか……、と店員は思う。しかし、そんな「まさか」みたいな偶然、そうそう起こることではない。しかし、「仮想:プレゼントを渡す相手」として頭の中で“彼”を想像していると話がスムーズかもしれない。
「そのお相手、普段はどんなアクセつけてます?たとえば、指輪とかピアスとか……」
「ああ、ピアスなら、良く」
「ちょうどよかった、新作が入荷したばっかりでして」
店員は、ケースの中からピアスをいくつか取り出す。そのすべてに「NEW」という赤い札がついていた。
「見てても大丈夫ですか?」
「はい。ぜひ、お手にとってごらんください」
客の彼は、最初に赤い石がついたひし形のピアスを手にとった。その光景を尻目に、店員は少し離れたケースの整理に向かう。ああいう客は、あれやこれやと無闇に声をかけずそっとしておいたほうが良い。店内に、シンと静まり返った空気が流れ始めていた。
どれほど時間がたっただろうか、もう一度自動ドアが開いた。店員が顔を上げると、そこに立っていたのは先ほど脳裏を掠めたばかりの常連客だった。
「あ、久しぶり~」
少なからず気心知れた相手だ、かしこまった接客用の声よりも少しだけ声が高くなる。
「そろそろ新作だって言ってたし、来ちゃった」
「出てるよ、見ていく?」
ニコニコと笑みを浮かべる常連客は、大きく頷こうとした。しかし……それはとても小さな呟きのせいで中途半端なところで止まった。
「……誠司?」
「ユ……っ、ユウさん?!」
***
「なーんだ、やっぱりセイちゃんの彼氏だったんだ」
「やっぱりって?」
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